猿とカニ
商品番号  0028
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この雅趣のある絵は、歌川豊広の筆というのが定説になっています。私は落款のないものしか見た事がありませんが、印章のついた版もあるとのことですし、この上品な雰囲気は彼の絵の特徴でもあります。豊広は、浮世絵の歴史を語る時に直ぐ思い浮ぶ名前ではありませんが、彼の作品よりもその筆を越えたところで広く浮世絵に影響を及ぼした絵師なのです。というのは、1811年に安藤徳太郎という14歳の少年を弟子としたのですが、この少年の希有な才能を認めて熱心に指導し、後に広重として知られることになった人物を育てているからです。


ところで、こんな顔の猿を見た事がありますか。これが猿でしょうか?まるで、動物園で見るナマケモノみたいですねえ。そして蟹の方は、それと分かる程度の大まかな筆の跡がごしゃごしゃしているだけです。これはもちろん豊広の狙いであって、猿と蟹を描くというよりむしろ、この二つの生き物をほのめかすような筆使いをしているのです。これと同じ技法がこの絵の至る所に用いられています。木、葦、水、そのまま描かれているものはひとつとしてなく、すべてそれらしく見える程度です。


「この絵を描くのに一体どれくらいかかったのかなあ。ほんの数分じゃないかなあ」この走り書きのような筆の跡をその通りに再現しようと、何時間も彫り続けていると、ついこんなことを考えてしまいます。



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