滝を登る鯉
この作者である柴田是真は、筆使いの巧みな事で知られていて、この絵には、彼の特徴とされるところが顕著に出ています。対象を完全に画ききらないのです。魚の形・岩の形・水しぶき... もうこれだけで、十分に内容を物語っていますね。是真の作品集は、手元に何冊かありますが、私の制作の題材としては、とうてい使えないようなものがいくつもあります。皆さんに送ったら、きっと、こう言って戻されるでしょうから。「デービッド、摺り終わっていないよ。ほとんど白紙じゃないか!」
絵の部分が最小限しかないからといって、復刻が簡単になる、ということはありません。たとえばこの版画の場合、摺りは9回でしたが、かすかな水しぶきから、魚と岩にある深い黒のぼかしまで、全体の均衡を保つのはなかなか大変でした。
ブル・デービッド 平成14年6月