暫く
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「しばらく、しばらく!」花道から浪々と響く声が聞こえると、劇場内の視線が一斉に役者の方に注がれます。典型的な荒事芸を見せる歌舞伎の一場面です。


「暫」は、市川宗家によって受け継がれてきた演目で、この絵は市川海老蔵が1796年に演じている様子です。身振りは非常に大胆、顔はとてつもなく険しい表情、ごつごつとして異様に大きく作られた衣装はドラマチックな雰囲気を醸すのにとても効果的です。


そんな醍醐味のある場面が、この小さな四角い版画に詰め込まれています。頭には侍烏帽子、顔は紅の筋隈、胸には鎧まで見えます。この絵で格段に際立つのは、劇場でも当然注目の的となるはずの、巨大な袖を飾る市川家の紋「三升」です。


この人物が誰で次に何が起ころうとしているのか、見ている人には一目瞭然です。悪人どもを懲らしめてくれるのです。世界中のどの劇を見ても、これほど陳腐であって、これほど観客が心待ちにする場面はないでしょう。


この版画の絵師は歌川国正、200年以上も前に作られたとは、私にとって大きな驚きです。ほんの昨日作られたといっても十分なくらい「モダン」ですから。このような版画がヨーロッパに渡り始めた時には、きっと相当な衝撃を与えたことでしょう!


私は、初めて日本に来てから数えて25年にもなりますが、まだ歌舞伎を見た事がありません。でもこれは、あまり変なことではないでしょう。同じような日本人がたくさんいると思いますから(ほとんどかもしれません)。でも、いつの日か機会があって観る事があれば、違和感なく溶け込めると思います。25年ものあいだ伝統木版画に取組んでいれば、知らず知らずのうちに歌舞伎の雰囲気を理解する感性も育っているはずですから!



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